心疾患患者のデータを読み解く
 
第3回
前負荷
西新井ハートセンター病院 白坂友美(感染管理認定看護師)

 前回、心拍出量を決定する因子は、「前負荷」「後負荷」「心収縮」「心拍数」とお話しました。今回は、前負荷についてもう少し詳しくお話します。


1.前負荷とは
 前負荷とは、心臓に戻ってくる静脈血量の事です。輪ゴムを引き伸ばして離した場合、長く引き伸ばすほど離した時の痛みは強く受けます(図1)。心臓も同様で、心臓の筋肉は心室内にたくさんの血液が流入して心室の筋肉が伸展される(心室拡張末期容積)と、強く収縮しようとします(図2)。このように、心臓は戻ってくる血液量に応じて収縮力を変化させています。これを「フランク・スターリングの法則」と言います(図3)。心臓の収縮力が低下している場合は、正常の心臓と同様の心室拡張末期容積でも、1回の拍出量は正常よりも低下します。





2.前負荷の指標
 臨床現場では前負荷をどのようにして把握しているのでしょう? それが中心静脈圧またはスワンガンツカテーテルによる右房圧です(図4)。正常値はテキストによって微小に数値は異なりますが、2〜8mmHgです。
 心収縮力が低下して血液を拍出しきれず心臓内に血液が貯留していった場合には、頚静脈に血液がうっ滞し怒張したり、肝うっ血では肝機能データが上昇として現れる事もあります(心不全症状)。

3.前負荷のコントロール
(1)前負荷が過剰の場合

 前負荷が過剰(心臓に戻ってくる静脈血量が多い)の場合には、心臓に戻ってくる血液量を減らします。全体の血液量を減らす場合は利尿剤(ラシックス、ハンプなど)を使用し、末梢静脈に血液をプールさせ静脈還流量を減らす場合は血管拡張薬(硝酸薬)を使用します。
 利尿剤、血管拡張薬の使用の際は、血圧の低下に注意します。特に冠動脈に狭窄があるような場合は、血圧低下により冠動脈への血流量が減少し、狭心症症状を呈し、心臓の収縮力を低下させてしまう危険性があります。必ず薬剤の使用前後の血圧や尿量の観察、冠動脈疾患のある患者や疑われる患者には心電図変化の観察は必要です。

(2)前負荷が減少の場合
 前負荷が少ない(心臓に戻ってくる静脈血量が少ない)の場合には、心臓に戻ってくる血液量を増やします。全体の血液量を増やす場合は基本的には輸液を行いますが、出血で全体の血液量が少ない場合は、血液データの結果で輸血を行うでしょう。
 また、利尿剤や血管拡張薬を使用している場合には、薬剤の減量や中止も考慮しなくてはなりません。しかしこれは患者の治療方針が大きく関与してきますので、医師への確認は必須です。例えば、冠動脈の血管拡張に使用していたり、腎機能障害がありwash out中であったりするケースがあります。まずは、看護師も患者の現在の病態生理と治療方針をしっかりと把握しておく事は重要です。
 前負荷を増やす場合に注意しなくてはならない事は、心不全症状です。特に低心機能の患者は、中心静脈圧または右房圧のほか、呼吸状態にも十分注意をしましょう。「輸液を入れて中心静脈圧または右房圧は上昇したが、気管内吸引をしたら水溶性の痰が引けてきた」という事が多々あります。こんなちょっとした現象の変化にも気がつける看護師はすばらしいと思います。

4.中心静脈圧または右房圧の落とし穴?
人工呼吸器(陽圧)を装着している患者の中心静脈圧または右房圧は、同じ静脈還流量でも、自然呼吸(陰圧)をしている患者の中心静脈圧または右房圧より少し高めに表示されます。右房圧は静脈還流による内側からの圧に加え人工呼吸器による外側からの圧が加わる事、中心静脈圧は胸腔内の圧が高い事により心臓内に血液が戻りにくくなる事から、自然呼吸よりも高く表示されます。
「ガス交換が不良だから1回換気量を増やした」「出血が多いからPEEP(呼気終末期陽圧)を高くした」場合に、「中心静脈圧または右房圧が上昇し報告したら、人工呼吸器の設定を変えたから様子見て・・・。」と、医師に言われた事がありませんか? そのような場合、胸腔内圧が高くなった事で静脈還流量が減少していないか、血圧・心拍出量の低下の有無を観察し、報告する事も大切となってきますから注意しましょう。

5.リハビリ時の血圧低下!皆さんどうしますか?
「人」はもともと2足歩行で立つ事を基本としています。そのような「人」が数日間横(臥床)になっていると心臓に戻ってくる血液量が増え、「循環血液量過剰」と判断し、利尿が促進されます。簡単に言うと、立つ人と比べ、ベッド上で臥床している人は循環血液量が少ない=脱水気味となります。それではそのような人が立った場合、どのようになるでしょう? それは、脱水傾向の上、重力により血液が下肢にプールされるため、心臓に戻ってくる血液量の低下が起こり血圧低下しやすくなります。さあ、患者が立った時、血圧が低くなり始めたら皆さんどうしますか?
 通常立った時、重力があっても、自然呼吸で胸腔内が陰圧となる事と下肢の筋力ポンプで心臓内へ静脈を返しています。
 急激な血圧低下、冷汗、意識レベル低下などの緊急的対応までに至らない場合は、ボーと立たせているのではなく、まずは足踏みを患者にさせてみましょう。ほとんどの患者が大きな血行動態の変化なくリハビリを進行できます(当センターでは血圧低下でリハビリができないケースはほとんど見受けられません)。

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